Y=S+C・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
即ち、社会全体の総所得(Y)は総消費(C)と総貯蓄(S)の和に等しい。年間総投資額は資本の増加額 (G-G0)=J であり、G0 及び G はそれぞれ当初と期末の資本である。また総貯蓄額(S)は総投資(J)に等しい。即ち、
S=δ*Y=(G-G0)=J・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ΔY=κ*ΔJ、 κ=1/(1-γ)=1/δ・・・・・(3)
ΔJ は原価償却費を上回る投資であり、κはケインズ乗数と呼ばれている投資の所得に対する効果を現す係数であるという。ケインズは景気の拡大のためには J を前年度より増やすこと、即ち政策的な投資の拡大が図られることが必要であるとする。
(G-G0)=δY・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4-1)
(W-W0)=χ*(G-G0)・・・・・・・・・・・・・・(4-2)
W=(1+δ'χ)W0+(αδ'χ)G0・・・・・・(5-1)
G=( δ')W0+(1+αδ')G0・・・・・・(5-2)
δ'=δ/[1-δ(α+χ)]
この関係は個々の企業にとっても、また全体にとっても同じであり、同じ関係式が得られる。この左辺の G は全ての製品が販売されてしまった後の資本と見る必要はない。
Y={1+(α+χ)δ'}Y0・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
従って、
ΔY=Y-Y0=(α+χ)(G-G0)=(α+χ)ΔG・・・・・・(7)
αとχはともに1より小さく、しかもこの乗数はケインズの理論(3)式とは異なり国民の貯蓄率δに無関係である。即ち(7)式は(3)式とは異なる。
[(G2-G1)-(G1-G0)]=δ'(Y1-Y0)・・・・・・・・・(8)
従って、(4−1)式の微分から求めた式を資本の増加量に対する所得の増加量の関係式であると解釈するのは正しくない。ケインズの乗数理論に現れる資本の変化量なるものは、通常の意味では資本の年間増加量の変化量でなければならない。別の言い方をすれば、昨年の資本増加を上回る資本増加分と言うことになろう。
ところで此の利子率はなにによって決まるか?この点に関し、ケインズはそれまでの資金の需要と供給によって決まるとする均衡論とは違って、流動性選好利子論と呼ばれる、ある種の人間論を前提とした理論を提起した。均衡論は同時に総ての非消費所得は総て生産に回されるとすることを前提とするが、ケインズの「投資するか他の財貨の形態(例えば現金)でもっているかは個々人が選択的に決定する」という流動性選好利子論では、生産に回らない資金の存在を前提とする事になる。
ε/r=ε+ε/(r+Δr)・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
左辺は現金化したとき、また右辺は株券のまま保持したときのそれぞれの場合の財産の大きさである。両者が等しいときはどちらでもっていても同じである。此の式から次の関係式を導くことができる。
Δr=r2/(1+r)≒r2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
利子率が少し上昇したとしても、即ち、Δr < r2 である限り、現金で持っているより、株券で持っている方が有利である。Δr がマイナスなら、即ち何らかの方法で平均金利を 下げることができるなら、どのような時でも株券でもつ方が有利となる。これがケインズの流動性選好利子論の基礎にある考えであり、ケインズは利子率のこのような動向に対して、資金の増加によって利子率を下げるようにコントロールする事が景気拡大の方策であるとした。平均利子率に対する政府の政策的介入の根拠とされている。更に追加するならば、一度下げられた金利の水準を二倍に戻すためには、 1/r 年の期間を経てでなければ景気にマイナスの影響を与えるものであることも判る。
平均利子率を下げるための金融市場への政策的介入の方策は、政府による市場での債券の購入であり、そのための銀行券の増発である。債券の価格は上昇し、結果として平均金利は低下すると言うものである。
額面総価格ΔG0 の株券を購入しようとするとき、必要な資金はΔM=(ε/r)ΔG0 である。ΔG0 は株券の全発行額面額のΔG0/G0(=全資産 G に対する割合ではΔG/G )であり、さらに利益は総て配当されるとすると εG0=αG でもあるから、
ΔM=(ε/r)ΔG0=(ε/r)(G0/G)ΔG=(α/r)ΔG・・・・・・(11-1)
ΔM は株券ΔG0 の此の市場での評価額であるが、それはまた資産ΔG の評価額でもある。利益率αの小さい企業の資産は低く評価され、αの大きい企業の資産は高く評価されている。
此の式の積分形は次のように考えることもできる。実際に生産と消費の経済活動に参加している資本は G であり、利益は αG である。これに対応した利益を市場において金利 r で得ようとすれば、必要な資金の総量はその 1/r である。即ち、
M=(α/r)G・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11-2)
ΔG/G=ΔM/M+Δr/r・・・・・・・・・・・・・・・(12-1)
一般的に、上式の左辺を資本の年間増加率と解釈すると、ΔG/G=rc>0 であるから、上式の r の年間変化率としては、
Δr/r=rc-ΔM/M・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12-2)
となる。即ち、特別の手当をしなければ(ΔM=0 ならば)平均の金利は年間Δr=rrc>0 ずつ大きくなっていく。
資金 M の年間増加率ΔMc/M が資本G の年間増加率ΔG/G に等しい場合には金利水準も一定に収まる。
rc は国民所得の伸び率ΔY/Y=(α+χ)δ よりは若干大きいが、rc の目安としては所得の伸び率を基準としても大差ない値である。
これらの利益率と利子率の制限は単一の経済圏の中でのことである。国際的な金融市場と連動している金融資本にとってはこれらの制約は強制力を持たない( r は別の要因に支配されている)。国際的な資本自由化の場合には、その国の平均利子率よりも高い利子率の経済圏があれば、特別の障害がなければ資金はそこへ流出していくであろう。結果として自由化された世界の平均利子率は一つの値に収斂する。たとえその値がどこかの国の許容範囲を超えたものであったとしてもである。利子率が低くてもなおもそこに留まっているとすれば、それは金融資本にとっては配当利益を期待してではなく、株価の投機的変動による利益の確保が可能だからである。
ΔMA=(αA/rA)hAΔGA・・・・・・・・・・(13-1)
ΔMB=(αB/rB)hBΔGB・・・・・・・・・・(13-2)
従って、「金」で測って同じ大きさの資本 ΔGA=ΔGB の場合に得られる利益から評価される資金の交換比率と貨幣の交換比率は次の様に現される。
(ΔMB/ΔMA)=(αB/αA)(rA/rB)(hB/hA)・・(14-1)
また、「金」で測って同じ大きさの資金ΔMB/hB=ΔMA/hA で買うことのできる商品はそれぞれの経済圏では同じではなく次のようになる。
(ΔGB/ΔGA)=(αA/αB)(rB/rA)・・・・(14-2)
資本の自由化によって、それぞれの利子率は rB≒rA≒r となるであろうが、平均利益率の異なる(αB≠αA)経済圏の間では資金の交換率は貨幣(商品の一種)の交換率に一致しない。利益率の高い経済圏の資本は資金市場では資金としては実際以上に高く評価され、低い利益率の経済圏の資本は実際以上に低く評価される。従ってまた(14−2)式の示すように、国際金融市場(国際為替市場)で交換された資金によっては、前者では「金」で測って交換されるよりも少ない貨幣又は商品が、後者ではより多くの貨幣又は商品が得られる。
(MB/GB)/(MA/GA)
=(αB/αA)(hB/hA)(rA/rB)・・・・・・・・・(15)
となる。左辺の分母分子それぞれはそれぞれの経済圏での全体としての商品の価格に比例したものであろうから、株価の急激な変動と同じ様な急激な変動は困難であり、他の商品の価格の変動を越えては大幅に変化することができない。従って右辺のαの比とhの比の積 は株価の変動に対しては半固定的で、両者は反比例の関係にある。つまり利益率の下落は株価の下落であり、その国の通貨の国際為替相場における下落( h の比の上昇)となる。利益率の予想値の上昇は株価の上昇となり、通貨の上昇となっていく。この場合の h はもはや「金」に対する通貨の大きさを示す「金」の価格から、資本に対する利益率のバロメータに変質しているのである。